世界で半導体が不足しているとか、熊本県に台湾の半導体製造企業のTSMCを誘致したとか、政府がその補助金として5000億円弱を出資する予定とか、そんなニュースがちらほらと耳に入ってきます
IoT(Internet of Things)でどんな物でもインターネットに繋げようとする昨今、半導体の需要が増加し、半導体がなければ何事も立ち行かなくなることは想像に難くありません
そんな半導体を地政学の視点から論じた太田泰彦氏の著書「2030半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か」を読みました
読んでみると半導体の重要性は想像以上で、もはや国家の戦略物資の位置付けであることがわかりました
「ほんの一欠片で構いません、半導体を、チップを恵んでください…」
そんな状況に将来の日本が追い込まれないことを願うばかりです
【太田泰彦:2030半導体の地政学】今、半導体が熱い!という本。世界の半導体不足とか熊本県に半導体製造工場のTSMCが来るとかニュースで聞いたときはふーんぐらいだったが、本書を読むと事態はより深刻で国の安全保障に直結する話であることがわかった。世界は血眼になって半導体確保に動き出している
— Keiya | 強くなりたい (@2R8R9) July 3, 2022
本書の感想
複雑で長すぎるサプライチェーン
まず読んでいて思ったのはこれですね
「半導体産業のサプライチェーンは複雑で長すぎるのでは?」
故にどこか一箇所で躓けば、途端に半導体が入手できなくなる
そんな危険性を感じました
半導体産業は分業が進んでいるらしく、ざっくり分けると以下の3つの仕事があるそうです
- ファブレス:設計する仕事(インテル、AMD、サムスン電子、等)
- ファウンドリー:製造する仕事(TSMC、UMC、グローバル・ファウンドリーズ(GF)、等)
- IPベンダー:機能単位の回路情報をライセンス販売する仕事(アーム、シノプス、ケイデンス、等)
IPベンダーが少しわかりにくいですが、半導体の設計は規模が大きいため(本書では都市を設計するようなものと例えられていました)、イチから設計していたのでは時間がかかりすぎるので、出来合いの回路情報を販売するIPベンダーという立ち位置があるそうです
そしてこの3つの仕事の中でも細かく分業が進んでいるらしく、複雑で長いサプライチェーンを形成しています
じゃあ、もっとシンプルにすればいいじゃん、と思いますが、半導体自体がものすごく技術的に難易度の高い製品であり、また、ムーアの法則に従うように常により高い集積度を求められるので、現在の人類の技術の粋を結集させないと完成しない代物であり、故にサプライチェーンの交通整理までは手が回らない状況なのかなと思いました
もう少し「半導体も枯れた技術だよね」くらいの段階になったら違ってくるのかもしれません
TSMC!TSMC!
とにかくTSMCの取り合いといった様相です
TSMCって何?というそこのあなた、この機会に覚えてしまいましょう
TSMCとは、台湾積体電路製造(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)のことで、台湾にある高い製造技術を持つ半導体のファウンドリー企業です
どのくらい技術力が高いかと言うと、とても微細な回路線幅の半導体を製造できます
2021年夏時点での各社の実力は以下のとおり
- 7ナノ:TSMC、サムスン電子、GF、SMIC、SKハイニックス
- 5ナノ:TSMC、サムスン電子
- 3ナノ:TSMC
技術的にはTSMCの独走状態です
で、そんなTSMCに対してアメリカが「うちの国内にTSMCの工場を立てろ」と圧力をかけたり、日本も「うちにもひとつお願いしますよ(ペコペコ)」と熊本県に誘致したりしているわけです
TSMCも技術は取られたくないので「じゃあ、10数ナノの回路線幅の工場なら造ってあげるよ〜」と、ちょっと古い型の工場建設に応じている状況です
企業の論理と国家の論理の対立
半導体は国家の戦略物資ということで、もはや自由な市場経済に任せておけるものでもない、というのがこの業界を一層難しいものにしています
要するに、企業としたら単純に市場が確保できたら嬉しくて、売れるところには売りたいのですが、国が安全保障上の理由から「その国には売らないで」と言ってくるということです
すると、国も半導体が入手できなくなったら困るので自前工場を作ったり…という流れになります
半導体は成長産業ではあると思うのですが、国の意向に左右されたり巨額の投資資金が必要であったりと、何かとリスキーな産業であるような気がしました
日本が自前で垂直統合的に半導体のすべての工程を国内で完結することも難しそうで(予算がない…)、アメリカや台湾と仲良くして、最新の半導体をぺこぺこして回してもらうしか道がないのかと思うと、ちょっと悲しくなりました〆
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