石黒耀「死都日本」を読む

「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」「まだ大丈夫」

そんな正常性バイアスに意識的にあるいは無意識的に身を委ねている我々に鉄槌を下す石黒耀(いしぐろあきら)氏の小説「死都日本(しとにっぽん)」を読みました

どんな内容の小説かと言いますと、九州で火山の大噴火が発生した後に、連動して南海トラフ地震が発生し、その後富士山まで大噴火するというそんな地獄絵図を描いた小説になります

大災害の役満

日本は台風や地震が多く、災害大国なんて言われますが、本書で扱う大災害は火山の大噴火です

あまり意識したことがなかったのですが、どうやら自然災害の中で一番やばいのが火山噴火のようで、本書が描く大災害役満のイメージは以下のような感じです

  • 九州で火山が大噴火 → 数時間で数百万人が死亡 → 火山灰が東京あたりまで覆ってあらゆる電子機器がダウン → 大雨が降って火山灰の土石流(ラハール)が日本各地で発生 → 大量の火山灰が地球全体を覆い尽くし平均気温が下がって食糧危機が発生 → 円は大暴落で紙切れと化す → その後南海トラフ地震が日本を襲う(ここで小説は完)

基本的には夢も希望も為す術もないお話です

そして、一発の噴火の数時間後に数百万人が死んでしまうという災害規模の大きさに頭が全くついていきませんでした

第2次世界対戦の日本の死者が230万人くらいと言われているのですが、それが数時間で起きるというのはヤバすぎじゃないですかね…

じゃあ、ただ読者を絶望させるための小説家というとそうではなくて、ラストの方では日本の発展のあり方などの熱いメッセージを作中の総理大臣の演説から読み取ることができます

個人的には、我々が享受している豊かな生活が如何に泡沫の夢のようなものであるのかということを思い知らされました

あとはやっぱり日本は防災・減災設計はとても大事

個人的にもこつこつと対策をしていきたいと思います

日本はアメリカの不沈空母

大災害発生後、日本の円が暴落して、経済的に日本をどうしてくれようとアメリカがいろいろと考えるくだりがあります

本作でのアメリカさんは、基本的に日本を自分に貢いでくれる奴隷のようなものと捉えています(現実でもそうなのかもしれませんが)

そんな中で「日本はアメリカの不沈空母」発言が出てきて、なるほどなぁ、そうだよなぁ、と妙に納得してしまいました

作中では日本もアメリカのその姿勢をわかっていて、日本が保有する大量のアメリカ国債を売って円を買い戻すことで円の暴落を阻止しようとするのですが、日本のアメリカ国債が市場に出回ると今度はアメリカ国債が暴落するのでアメリカが邪魔しようとしてきたり、とそんな経済戦争っぷりもなかなか読み応えがありました

で気になったので、現実の日本が保有するアメリカ国債の保有高を調べてみると1兆2,180億ドルでした(2022年6月15日アメリカ財務省発表)

ただこの規模の実感はいまいちよくわかりません(日本のGDPが5兆ドルくらいなので、小さい額ではないとは思うのですが)

古事記は火山噴火の物語

本書では古事記の伝説を火山噴火で捉えるシーンがたびたび出てきます(本当にたびたび出てきます)

  • イザナミが火の神を産んで死んでしまったのは、噴火による山体崩壊のたとえ
  • アマテラスが洞窟に隠れたのは(天の岩屋戸事件)は、噴火による灰雲に太陽が隠れたことのたとえ
  • スサノオが涕泣する場面で飛んでいる狭蝿(さばえ)は火山灰

けいやは古事記を読んだことがありませんが、今後読む際には火山噴火のことを念頭においておこうと思いました

また、イザナミが「毎日1,000人殺す」と脅した際に、イザナギが「毎日1,500人産む」と答える場面もなんだか意味深で、「噴火に襲われても諦めるな」というメッセージなのかと思いました

Second Best, Tomorrow!(今できることをしろ!)

本書で紹介されるイギリスの戦時訓として「Second Best, Tomorrow!(今できることをしろ!)」というものがあります

要するに、最善を求めて手遅れになるよりも、次善で良いから今できることをしろ、ということです

なんで「Second Best, Today!」とか「Second Best, Now!」ではないのかと余計なことを考えてしまいましたが、緊急時にはこの心構えを大事にしたいと思いました〆

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