あまり漫画は読まないけいやなのですが、山田芳裕氏の漫画「へうげもの」読んだので感想を記します
「へうげもの」で「ひょうげもの」と読みます
「ひょうげもの」とは「剽(ひょう)げた人」ということで、「おどけた人、面白いことが好きな人」といった意味です
「へうげもの」の主人公は戦国時代の武将・古田織部(ふるた・おりべ)です
…だれ?
と本書を読み始める前は聞いたこともない名でしたが、なんでも戦国時代に活躍した茶人なのだとか
けいやは茶道に少し興味があるので(興味があるだけでやりたいわけではない)、それで本書を読むことにしたのでした
本書の感想
「へうげもの」は全部で25巻あって、読了するのに4か月かかってしまいましたが、全体を通して非常に面白い作品でした
なんというか数寄(すき)や乙(おつ)が力を持ちすぎてぶっ飛んだ世界観です
みんな数寄や乙に命かけすぎです
ある種ギャグ漫画なのですが、それでも史実に基づいて物語が展開されるので、妙に現実味を感じる場面もあります
なお、数寄とは、風流好きとか芸事好きといった意味です
乙とは、甲の次に来るものということで、2番目に良い、そこから1番からはちょっとずれているけどこれはこれで良い、といった意味です
あと戦国時代の人々の死に様を描く物語だなとも思いました
誰かが死ぬときがこの物語が盛り上がるときです
さて、以下からはけいや的に盛り上がった「へうげもの」のハイライトシーンを紹介したいと思います
武をもって華をなす、芸をもって侘びをなす(1巻)
本書の前半のもう一人の主人公と言っても過言ではない千利休のセリフです
侘びとは、貧困や孤独の中に心の充足を見出そうとする姿勢です
英語で言うと”Simple is the best”でしょうか
「へうげもの」の世界では千利休の権力が絶大です
正直、陰で戦国の世を操っています
そんな利休さんは自分好みの侘び・数寄で世の中を席捲しようという業(ごう)に囚われています
そんな利休さんが放った、なんかかっこいいセリフです
俺はあらゆる人間とダール・イ・レゼベールの関係を築きたかった(3巻)
織田信長が死に際にはなったセリフです
ダール・イ・レゼベールとはギブ・アンド・テイクを意味するポルトガル語
このセリフは織田信長が秀吉に放ったセリフです
信長に忠義を尽くす役回りで描かれることが多い秀吉ですが、なんと「へうげもの」では秀吉が信長を暗殺します(しかも千利休の入れ知恵で)
秀吉の一太刀により信長は真っ二つになります
しかし、信長はそれでも平然と歩いて茶室に座り、自分の傷口から出る血液を茶碗にとって茶をたてるという衝撃展開が描かれます
そして信長が絶命するその瞬間に本セリフを放つのです
無茶苦茶読み応えのあるかっこいいシーンです
月さびよ 明智が妻の 咄(はなし)せむ(4巻)
こちらは明智光秀が死に際に詠んだ短歌(俳句)です
一般に松尾芭蕉が詠んだとされる俳句ですが、「へうげもの」では明智光秀自身が死に際に自分の最愛の妻を想って詠むことになります
「寂しい月夜ですが、明智の妻の話でもしましょう」
というような意味です
ちなみに、明智の妻の話とは、光秀のために髪を売ってお金を作ったエピソード等を指します
明智本人の口から語らせると、明智び妻への愛の深さを表すシーンとなります
何たる傑物、何たる茶鬼(9巻)
間違いなく「へうげもの」前半の最大のハイライト、千利休の切腹シーンにおける介錯役・古田織部の心の声です
切腹に臨む千利休は暴れまわりとても態度が悪いのですが、それが周りの人への配慮に基づいた演出であり、もてなしであると気づいた古田織部の戦慄が茶鬼(ちゃき)というパワーワードを生み出しました
そして、そのもてなしに気づいた古田織部に気づいたであろう千利休は、今度は剽(ひょう)げ始めるのです
「壁が邪魔で切腹できねぇ!」
と訳が分からない感じを演出する千利休
それを見て笑いをこらえきれない古田織部
このあたりの二人のやり取りは本当に凄みがあって読みごたえがあります
間違いなく名シーンです
Dream(吉幾三)(12巻)
豊臣秀吉が亡くなるシーンでなぜか突然吉幾三のDreamが流れます
唐突過ぎて目を疑いますが、これがとてもあたたかいシーンで乙なのです
秀吉の最期の瞬間のために、戦国武将たちが集まって秀吉の大好きな「瓜畑遊び」(仮想大会みたいなもの)に興じます
すると危篤状態だった秀吉がにわかに元気を取り戻して歩き出します
そして最後は秀吉の正室の北政所(きたのまんどころ)の膝の上に横たわり息を引き取る秀吉なのでした
北政所:「そぎゃーな格好で寝たら風邪ひくでよぉ…」
秀吉:「構わにゃーて、どうせ夢よ」
百姓から天下人に上り詰めた夢のような人生を生きた秀吉の最期と、吉幾三のDreamが何故かとてもよくマッチしています
石田正澄(いしだ・まさずみ)の切腹シーン(15巻)
これはちょっと地味なシーンなのですが、石田三成のお兄ちゃんの石田正澄の切腹シーンも印象的でした
秀吉亡き後の関ヶ原の戦いで徳川家康に敗れた石田三成勢
石田正澄も切腹することになるのですが、そのシーンがとても清々しいです
切腹する前に、屋敷を掃除して、畑に水をやって、表に水を打って、床の間に取れたての瓜を飾ります
「死ぬ前にこのレベルの身の回りの整理ができるのって素敵だな」と思いました
変幻自在・融通無碍の茶の湯で良い(17巻)
徳川家康の御用達の朱子学者に「これからは茶の湯ではなく、茶道にすべき」と言われた際に、古田織部が返した返答
武道・華道・書道・茶道…なんでも「道」つけりゃいいってもんじゃないということでしょうか
確かに「道」が付くと「型」が決まって箔が付きますが、一方で自由な創意工夫の余地が少なくなる気もします
人を楽しませることやもてなしの真髄を語った古田織部のセリフだと思いました
柳生宗矩 vs 古田織部(21巻)
徳川家康に古田織部の暗殺を命じられた柳生新陰流の柳生宗矩(やぎゅう・むねのり)が古田織部と一騎打ちするシーン
「いや、絶対古田織部勝てないだろ、どうやって乗り切るんだ…」
と思って読んでいたところ、なんと古田織部は王貞治の一本足打法のひょうげ殺法で窮地を脱してしまうのでした
と、言葉で書いても訳が分からないのですが、是非漫画で読んでみてください
漫画で読んでも意味が分からないことに変わりはないのですが、単純に面白いシーンでした
古田織部、切腹(25巻)
そしていよいよ古田織部の切腹シーンです
徳川家康に切腹を命じられた古田織部
どんな描かれ方をするのか読む前はかなり期待度MAXでした
介錯役はなんと徳川家康自身
役者はそろった、千利休の切腹シーンのような名シーンとなること間違いなし!
と思っていたのですが…
なぜかこのシーンの落ちは、刃を腹に突き立てた古田織部が盛大にうんこを漏らし、それを見た介錯役の徳川家康が爆笑してしまうというものでした…
構図としては千利休の切腹シーンと同じなのですが、下ネタというのが凄みに欠けて…
まぁ、徳川家康といえば「うんこネタ」という連想もあるので、単純に下ネタぶち込んだだけではないのかもしれませんが、期待値が大きかっただけにちょっと物足りないシーンでした
しかし、逆に切腹シーンから続く最終話の描き方はとても良かったです
結局、切腹シーンでは、腹に刃を突き立てはしたものの、介錯役の徳川家康が古田織部の首を落とすシーンまでは描かれませんでした
すなわち、古田織部は本当に死んだかどうかは不明ということで、最終話はどちらかというと、古田織部は死んでいなくて、ひっそりと南方に逃れて、数寄の余生を送っていた?というテイストで描かれます
古田織部の死が信じられない古田織部ゆかりの武将(上田宗箇)が、その足跡を琉球まで追って行き、離れの民家に蚊取り豚(徳利を横置きにして豚に模したもの)を発見し、「ひょうげものめが…」と古田織部の生存を確信して本物語は終わります
とても後味の爽やかな終わり方です
おわりに
以上のとおりけいや的に印象に残ったシーンを振り返ってみました
戦国時代を描く物語は、戦の戦略・戦術、権謀術数などのゴリゴリマッチョな点にフォーカスが当たることが多いですが、「へうげもの」では「数寄」という観点から時代や人物を切り取っており、非常に新鮮で面白みのある物語だと思いました
なお、登場人物は結構多いのである程度歴史の基礎知識があった方が読みやすく楽しめるのかなとは思いました
けいやは司馬遼太郎の小説を読んでいたので、大体の話はついて行けたので良かったです〆
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