垣谷美雨「ニュータウンは黄昏れて」を読む

――いま売っても借金が残る

30年ローンで購入した分譲団地がバブル崩壊で値崩れし、旦那は会社のM&Aで窓際に追いやられ給料が下がり、妻はパートで頑張るけれど、それでも月々の返済は重く、そんな疲弊しきった家族に今度は団地の建て替え話が持ち上がり、高齢になった団地住民の意見はまとまらず…と何かの冗談か地獄かと思う話です

この物語はフィクションですが、だからといって対岸の火事として笑い飛ばせない怖さを感じます

ほとんどの人にとって一生に一度の買い物になるであろうマイホーム

こんなはずじゃなかったと後悔しないためにも、こういったリスクも事前に検討の上で、決断を下したいものです

本書の感想

持ち家はリスクの塊

本書を読み終わった後の感想はまずはこれでした

将来の収入、住宅事情、インフレ率、世界情勢、自然災害、近隣住民の状況、等々

自分ではコントロールできない変数を数え上げればきりがありません

すべてのリスクが大きく顕在化しなければ、購入後数十年経ったあとでも「購入してよかった」と思えることでしょうが、どれかひとつでもリスクが大きく顕在化して爆発したら…

いや、確かにマイホームに憧れる気持ちもわかります

一国一城の主、終の棲家、大きな庭に大きな犬、休日は庭でみんなでバーベキューみたいな、誰しも少しは夢想するところではありますが、その対極には借金返済のために生活を切り詰め、貧すれば鈍するで家族や友人との人間関係もギスギスするという未来もあり得るわけです

マイホーム購入とはリスクの塊を受け入れるということ

それは本当に個人が引き受けて良い適正なリスクなのか?

とにかくノリと勢いだけで購入してしまわないよう、肝に銘じておきたいと思いました

玉の輿を狙う女たち

本書の主題は「分譲団地を購入したあとの苦労あれこれ」です

この苦労話は、作者自身が30代前半のバブル絶頂期に5千万円で4LDKの分譲団地を購入した経験に基づいているため、現実世界でも参考となるリアルな描写となっています

ただ物語の筋としては、団地で生まれ育った仲良し3人組の女子が、資産家の彼氏を3人で回すお話です

こう書くとなんだかただの股のゆるい話のように聞こえますが、本書の楽しみ方としては彼女達と、どこか裏がありそうな資産家彼氏との格差にまつわるエトセトラに注目するというのもあります

――もうお金に困る惨めな思いはしたくない

いくら玉の輿に憧れても、育ってきた環境の違いからくる根本的な世界認識の差は一時の恋愛感情などでは埋められるはずもなく、次々と夢破れるどころか地獄送りにされる彼女たち…となるかは本書を読んでのお楽しみです〆

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