新庄耕(しんじょう こう)氏のデビュー作「狭小邸宅」(第36回すばる文学賞受賞)を読みました
不動産屋で結果を出せない主人公が左遷先で難関物件が売れたことをきっかけに元伝説営業マンの課長の手ほどきを受けるようになりエースに上り詰めるも、仕事に没頭する中で虚栄心や傲慢な態度が目立つようになり、プライベートは荒れ果て、このままで俺はいいのかぁぁぁ!!となって突然話が終了する、ライトな読みごたえを維持しつつ、しっかり文学の香りを漂わせる面白い小説でした
本書の感想
不動産用語が新鮮
ペンシルハウス
狭い土地に建てられた3階建てくらいの細長い建物のことをペンシルハウスと言うらしいです
確かに細長くて尖がっているので鉛筆を連想しなくもないですが、何千万円もする一生に一度の買い物を鉛筆に例えるなんて、なんかちょっと小馬鹿にしてますよね?
営業のエースになった主人公も大学の同級生との飲み会でこんな感じで言い放ちます
「嘘なわけねぇだろ、カス。本当だよ。世田谷で庭付きの家なんててめぇなんかが買えるわけねぇだろ。そもそも大企業だろうと何だろうと、普通のサラリーマンじゃ一億の家なんて絶対買えない。ここにいる奴は誰ひとり買えない。どんなにあがいてもてめぇらが買えるのはペンシルハウスって決まってんだよ」
うん、やっぱり馬鹿にしてますね
名前変えた方がいいですよ、…ミサイルハウスとかどうですかね?
- どんなにあがいてもてめぇらが買えるのはミサイルハウスって決まってんだよ!
なんか馬鹿にしているのか何なのかわからなくなったので、いい感じなのではないでしょうか
サンドイッチマン
人の腹と背中に看板をぶら下げて立っている人間広告塔のことをサンドイッチマンと言うらしいです
本小説でも部長が部下にこのように命じます
「駄目だ、電話やめろ、もうかけんな。表出て、サンドイッチマンやれ、お前にできる仕事はサンドイッチマンだけだ。死ぬ気で客つかまえろ」
バイトのノリなら楽しくできそうですけど、正社員にこれは辛い、と思いました
ただ後で調べたところによると、サンドイッチマンは広告効果としては結構良いらしいです
なお、漫才コンビのサンドウィッチマンももしかしたらこれが由来?と思って調べたら、全然違くて、もともとトリオで真ん中の人がガリガリだったからサンドウィッチマンとなったみたいです
わりと心にグサグサくる
本書のテンポを良くしているのが、暴力に支配された不動産屋の職場シーンです
主人公ははじめ売れない営業なので、ボロカスに言われたり蹴り入れられたりで散々です
「こんなブラックな職場あるかよー(笑」
と思う一方で、心のどこかで
「こんなブラックな職場ないよね?(怯」
と不安に駆られる自分がいました
職場の人間関係で悩んで転職を考えている人に本書を渡すと思いなおす効果があるかもしれません(注:暴力は犯罪です)
最後に、家が売れない主人公に向かって課長が放った一言をどうぞ
「自意識が強く、観念的で、理想や言い訳ばかり並べたてる。それでいて肝心の目の前にある現実をなめる」
はい、僕のことです、ごめんなさい(泣〆
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