三菱重工業の2019年度決算が赤字になったと聞いて、気になったので決算書[1]https://www.mhi.com/jp/finance/library/resultを確認してみました
本記事の総括を先に書いてしまうと、SpaceJet案件の一撃で赤字に転落したが、他の案件では利益が出ており、キャッシュもあるのですぐに経営が揺らぐということはないという印象です
連結経営成績サマリー
まずは「連結経営成績サマリー」を見てみましょう(単位は億円)
2019年度 | 前年度比 | SpaceJet分の損失 | |
受注高 | 41,686 | +3,152 | ― |
売上収益 | 40,413 | △ 369 | ― |
事業利益 | △ 295 | △ 2,162 | △2,633 |
親会社の所有者に帰属する当期利益 | 871 | △ 142 | △478 |
ROE | 6.6% | △0.6pt | ― |
EBITDA | 1,151 | △ 1,965 | △2,624 |
フリーキャッシュフロー | 2,129 | △300 | △1,409 |
事業利益が-295億円です
前年度の事業利益と比べると-2,162億円です
一方、売上収益は前年度と比べると-369億円となっています
売上収益の減少額に比べて事業利益が大幅に悪くなっているので、何らかの案件で失敗したのかなという印象です
赤字の原因はSpaceJet
で、何の案件で失敗したのかと云えば、もちろんSpaceJetです
先の表の右側に「SpaceJet分の損失」という欄を入れていますが、この案件だけで事業利益が-2,633億円です
なので話を単純にすると、他の案件・事業は前年度並みの利益を出しているけどSpaceJetの一撃で赤字に転落したと云えるのではないかと思います
そもそもSpaceJetって何?という話ですが、半世紀ぶりの国産旅客機案件です
しかし、現代で通用する旅客機のノウハウが日本に残っていなくて苦戦しているようです(もともと2013年納入の予定だったが、2020年になっても完成していない)
また、コロナショックにより旅客機の需要が読みづらくなっており、まだまだ前途多難な様子です
連結経営の強み
ところで、連結経営としては赤字なのですが「親会社の所有者に帰属する当期利益」は871億円の黒字となっています
なんか不思議な感じですが、要するに親会社(三菱重工本体)は関係会社の株主であり、SpaceJet案件の関係会社(具体的には三菱航空機株式会社、等)では利益が出ずに配当が貰えなくても、他の案件の関係会社から利益が出ており配当が貰えるので黒字になるという構造なのだと思います
関係会社の事業がひとつくらい上手くいかなくたって、親会社としては赤字にならないので、連結経営って親会社から見れば強固なシステムだなと思います(悪く云えば、トカゲの尻尾切りシステムですが)
ROE=6.6%は実質もう少し低く見たほうが良い?
ROE(自己資本利益率、株主のお金を使ってどれだけ利益を上げているかの指標)は6.6%でまぁ普通かなという印象(日本の企業ならROEは5~10%なら平均的)
しかし、ここで主要財務指標をチェックしてみると、自己資本比率が24.4%と少し低めです(自己資本比率は40%以上なら優良企業な印象)
2019年度 | 前年度比 | |
自己資本比率 | 24.4% | △ 3.4% |
有利子負債残高 | 5,982億円 | △ 668億円 |
D/Eレシオ | 0.46 | +0.08 |
自己資本比率が低いということは、他人資本(借金)が大きいということですが、他人資本が大きくなるとROEは高い値になるので、ROEが6.6%という数字は実質の実力としてはもう少し低く見ておいたほうが正確なのかもしれません
なお、有利子負債残高(要は利子付きの借金)は前年度比-668億円で着実に借金を返していると表現できます
またD/Eレシオ(利子負債が自己資本の何倍か)は、1%を切っているので数値的には安定した財務と云うことができます
EBITDAも一応チェック
EBITDA (イービットディーエー)はざっくり表現すると税引き前の利益ですが、この値は+1,151億円です
国によって税率が違うので、世界の企業と比較する際に有用な数字ですが、今回は「税金取られる前は黒字なんだ」くらいの情報でしょうか
フリーキャッシュフローは潤沢
フリーキャッシュフローは+2,129億円です
内訳は以下のとおりです(単位は億円)
2019年度 | 前年度比 | |
営業キャッシュフロー | 4,525 | +476 |
投資キャッシュフロー | △ 2,395 | △ 776 |
フリーキャッシュフロー | 2,129 | △ 300 |
ちなみに財務キャッシュフローは決算書によると-2,044億円(前年度比-666億円)なので、手元に残した現金は2,129-2,044=85億円程度と読めます
赤字でもキャッシュは潤沢なので、今すぐ倒産、とかそういう話ではなさそうです
おわりに
SpaceJet案件の損失が大きすぎて赤字に転落した三菱重工ですが、全体としてはまだまだ堅調で今すぐに経営が揺らぐような状態にはないという印象でした
ただし、SpaceJet案件はずるずると損失を計上し続けているので、ここ数年は要注意で見ておく必要があると思いました〆
References
↑1 | https://www.mhi.com/jp/finance/library/result |
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