幸田真音氏の小説「天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債」を読みました
1900年代前半に日銀総裁・大蔵大臣・内閣総理大臣を歴任した傑物・高橋是清の人生を題材にした小説です
本の感想
エピソードに事欠かない高橋是清
こんな人生を送った人物が実際にいたのかと思うほどの波乱万丈な人生です
ざっと年表を示してみましょう
- 1854年(0歳)江戸に生まれる。女中との間の子供だったため養子に出される
- 1867年(13歳)アメリカに留学。現地でうっかり奴隷契約をしてしまう
- 1869年(15歳)なんとか帰国。江戸幕府が無くなっておりびっくり。学校に入るも酒を飲んだり、芸妓遊びを覚えたり、知り合いに騙されて借金を背負ったりで散々で学校を辞める
- 1871年(17歳)佐賀県で英語学校を立ち上げる。東京で付き合っていた芸妓と疎遠になり別れる
- 1872年(18歳)東京に戻る。教師をしたり、通訳をしたり、翻訳をしたりで生活する
- 1876年(22歳)1回目の結婚
- 1878年(24歳)英語学校の校長になる
- 1881年(27歳)農商務省に入り特許関連の法律の整備に尽力する
- 1884年(30歳)妻を病気で亡くす
- 1887年(33歳)特許局長になる。2回目の結婚
- 1890年(36歳)銀山発掘のためペルーに行く。しかし廃坑であることが発覚し帰国。投資金を溶かし私邸を売却、丸裸になる
- 1892年(38歳)日本銀行の建築現場に潜り込む
- 1893年(39歳)日本銀行西部支店長になる
- 1895年(41歳)横浜正金銀行本店支配人になる
- 1899年(45歳)日本銀行副総裁になる
- 1904年(50歳)日露戦争が始まる。外債募集のためにロンドンやニューヨークを駆けずり回る
- 1911年(57歳)日本銀行総裁になる
- 1913年(59歳)1回目の大蔵大臣になる
- 1918年(64歳)2回目の大蔵大臣
- 1921年(67歳)原敬首相が暗殺され急遽内閣総理大臣になる。大蔵大臣も兼務(3回目)
- 1931年(77歳)4回目の大蔵大臣
- 1932年(78歳)5回目の大蔵大臣
- 1934年(80歳)6回目の大蔵大臣
- 1936年(81歳)二・二六事件で暗殺される
外国に行ったり、学校を作ったり、官僚になったり、実業家になったり、大臣になったりと本当に豊富な経歴の持ち主です
大臣等の立派な経歴を持つ高橋是清ですが、意外なことにエリート教育を受けていたわけではありません
それどころか、10代の頃まではかなりの放蕩者で、一歩間違えれば乞食になってその辺の道端で死んでいてもおかしくないような生活をしていたようです
そんな彼が立身出世できた理由は、英語ができたこと、これが大きいです
幕末の時代に先駆けて渡米のチャンスを掴むことで、当時としては貴重な英語が分かる人材となります
困ったときの高橋是清
高橋是清の人生における最も大きなイベントはやはり日露戦争時の外債募集でしょうか
募集に失敗すれば、金欠で戦争敗北⇒ロシアに侵略される、というシナリオが見えているだけに半端ないプレッシャーだったはずです
しかし、是清はこのミッションをクリア
その後は、国難の度に大蔵大臣を要請される羽目になります
80歳になって引退モードでも「助けてください」と云われれば、大蔵大臣の座についてお国のために頑張る是清
そんな是清が最後は暗殺されてしまうのはとてもやり切れない気持ちになります
とは云っても、当時の情勢から考えて、是清自身は暗殺される可能性については十分予想していたと思われます
それでも自己を優先せずに国家のために働く信念を貫く是清、その生き様に感服です
金融の世界は難しい
小説では、国債とか、金利とか、金融の用語というか考え方が頻繁に出てきます
慣れていないと内容の理解が難しいかもしれません
- 日銀が国債を引き受けると経済はどうなるのか?
- 紙幣の金貨兌換を停止したら経済はどうなるのか?
…慣れていないと「ん?」となります
まぁ、この辺の金融政策の効果については、今でも色々な意見があるような気がしますが、本書を読むと日本の金融政策の歴史がわかって面白いと思います〆
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